2022.11.22 インタビュー

志高く、泥臭く。顧客視点を大切にEC物流に変革を

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EC事業者さまが使うOMS(受注管理システム)と倉庫事業者さまが使うWMS(倉庫管理システム)を一体した、自動出荷システム「LOGILESS」。僕たちはこのLOGILESSを通じて、「ECロジスティクスを変革し、日本の未来をスケールする」ことを目指しています。でも、会社の方向性が明確になったのはつい数年前のこと。僕たちがどのようにLOGILESSを開発し、組織を作ってきたのか。今回は創業から今日までの道のりについてお話しようと思います。

この記事に登場する人

代表取締役CEO 足立 直之

兵庫県出身。立命館大学卒業。新卒で楽天に入社し、楽天ブックスにて3年間、出版社への営業や電子書籍事業の立ち上げなどを担当。2012年にロジレスの前身となる会社を立ち上げ、自分たちでECサイトを運営。自社の業務を効率化するためのシステム開発をしていく中で、同様の課題を抱えている人たちの存在を知る。2017年にロジレスを創業。より多くのEC事業者の課題を解決したいと考え、SaaSプロダクトとして提供開始。EC物流の問題をよりよい方向に解決していくことを目指す。

ロジレスを起業するまで

最初に起業した会社ではEC事業を運営。EC物流の難しさを自ら経験

僕は2009年に大学を卒業後、楽天に入社しました。在籍した3年間、主に楽天ブックスの営業や電子書籍事業の立ち上げを担当。EC販売のノウハウや在庫管理の基礎を学びました。独立を考えるきっかけになったのは、2011年に経験した東日本大震災。「人生いつ何が起こるかわからない。自分の意志で決めた道を歩みたい」と思い、楽天を退職。そして2012年にロジレスではない別の会社を立ち上げました。

勢いで起業したこともあって、当時は「社会を良くしたい」という高い志もなければ、事業の方向性も定まらない状態。「面白そう!」と思いついたことをサービス化してみては、事業として成立せずに半年足らずでクローズするというサイクルを繰り返していました。あれこれ試した中で、比較的順調だったのがEC事業。古本を仕入れてECサイトで販売していたら、徐々に売上が伸びたんです。ところが売れたら売れたで、後が大変。注文を受けて、1つずつ在庫を引き当て、梱包して伝票を印刷して、配送業者さんに荷物を手渡すことをひたすら繰り返す。朝から晩まで受注・出荷作業に追われる状態になって、「こんなことするために起業したんだっけ?」と考えるようになりました。このとき感じたペインが、LOGILESSを開発するヒントになりました。

自分たちの業務を効率化したい。自社ツールとして開発をスタート

受注・出荷地獄から抜け出すために、出荷作業を外部の倉庫事業者へ依頼。それでも目の前にあるのは、大量の受注・出荷業務。「なんで楽天の時のようにスムーズなオペレーションが実現できないんだろう?」とずっと頭を悩ませていました。スムーズな出荷が実現できない原因は「システムの分断」です。一般的にEC事業では、受注業務はOMS(受注管理システム)、出荷業務はWMS(倉庫管理システム)を使うことでオペレーションを効率化しています。当時の僕たちも2つのシステムを利用していたのですが、システムが分断しているために結局データの受け渡し業務が発生したり、オペレーションの柔軟性という観点でやりたいことが実現できないのです。

「OMSとWMSが一体になったシステムがあれば、受注~出荷までの一連のプロセスの生産性を向上できるんじゃないか」と考えたんです。楽天時代の同僚で共同創業者でもあるCTOの田中に相談すると「多分できると思うよ」と二つ返事で答えてくれて「じゃあ作ってみよう」と。こうして、社内向けツールとして、LOGILESSの開発がスタートしました。

僕たち以上に開発熱の高い倉庫事業者さまと出会い、WMSの磨き込みをスタート

社内システムが少しずつ形になってきたのは2015年頃。しばらくすると、噂を聞きつけた知人のEC事業者さまから「うちでも使ってみたい」という相談を受けるようになり、限定的に外部にも提供を始めました。「みんな同じような課題を抱えている。外販したらけっこう売れるかも」と考え始めていた頃、倉庫事業者のハセガワロジスティクスさまと出会いました。この出会いが僕たちの運命を大きく変えることになります。

ハセガワロジスティクスさまとは、もともとまったく別の件で商談をしていたのですが、「僕たち今OMSとWMSをひとつにしたシステムを作っているんです」という話をすると、社長の長谷川さんが目を輝かせて「そんな夢のようなシステムできるのか。それなら、うちのシステムを全部LOGILESSに切り替えるから、一緒に完成させよう」と。まだβ版のシステムだったにも関わらず、僕たちの開発しているシステムに対して、僕たち以上に熱い想いを持ってくれたんです。そこまで言っていただいたのなら、僕たちも本気で答えよう。長谷川さんの情熱に触れて、僕たちもLOGILESSを主事業としていく決心をしました。

とは言うものの、最初にハセガワロジスティクスさまに導入したシステムは業務に必要な要件を全く満たしていませんでした。それもそのはず。当時の僕たちはEC事業者側の視点こそ持っているものの、倉庫業務については全くの素人。WMS部分については自分たちの業務をベースに開発してしまったため、物流代行を事業としている倉庫会社さまのニーズにまったくフィットしなかったのです。

そこで長谷川さんにお願いして、倉庫作業を手伝わせていただくことに。週3日ペースで通い、従業員のみなさんと一緒にピッキング作業や梱包作業をしたり、昼食を取ったり。就業後は、毎回のようにお酒を酌み交わし、ECの未来や理想のシステムについてたくさん話しました。こうして倉庫内での業務に対する解像度が高まっていくと、いろいろな課題が見えてきました。

例えば、当時のハセガワロジスティクスさまは10数社のEC事業者さまとお付き合いがありましたが、業務オペレーションは10社10様。あるEC事業者はロイヤルユーザーに特別なメッセージを入れる、別の事業者は購入商品に合わせて同梱するカタログを変える。また、バーコードのついていない商品を扱うこともあり、その場合は在庫を目視で管理することも。どうすれば効率化できるのか。ミスをなくせるのか。現場で課題を見つけて、現場でアイデアを考えながら、1つひとつ解消していくという泥臭い開発でした。そして3年かけて一定の業務要望に応えられるシステムが完成しました。

ロジレスを起業してから

OMSの完成度を高めるために、EC事業者様の多種多様な課題と想いに向き合う

2017年2月に株式会社ロジレスを設立し、同時に「LOGILESS」を正式ローンチ。しかし実際にローンチしてみるとEC事業者さまのニーズにはまだ応えられていない点が多い事も分かり、プロダクト開発の日々が続きました。

2019年の会議での一コマ

EC事業者側が利用するOMSについての課題共有をいただいたのは、大阪のアパレル企業のエヴァー・グリーンさま。複数のモールで複数のブランドを運営していて、モールによって割引率を変えたり、「2品購入した場合は2品目を半額にする」などのキャンペーンを展開していました。2017年の時点では複雑なオペレーションを人海戦術で行なっていて、バックヤードはひっ迫している状況でした。一方でLOGILESSもまだ未完成な部分が多く、これほど複雑なオペレーションを自動化できる機能は備わっていなかったため、CTOの田中が2ヶ月間エヴァー・グリーンさまのオフィスで働き、受注管理業務を勉強させてもらいました。毎日スタッフさんの隣で「これは何してるんですか?」と1つずつメモを取り、オペレーションを分析して、システムに組み込む。今、多くのEC事業者さまからご好評いただいている「RPA機能」は、実はこのときに開発したものです。
お客さまに出会う度に、新たな課題を共有していただき、その課題と向き合うことでLOGILESSにはいろいろな機能が備わっていきました。LOGILESSがこんなにも早くPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成できたのは、お客さまのおかげだと心底思っています。

お客さまのおかげでEC事業のナレッジを得ることができましたし、たくさんの事業者さまの情熱に触れられたことが大きな価値。どんなにオペレーションが複雑になっても、非効率だとわかっていても、購入者の方に価値を届けたくて、手書きのメッセージカードをつけたり、パッケージングにこだわったり、お子様向けのプレゼントは必ずかわいくラッピングすることを続けています。そうした想いに共感したからこそ、僕たちも複雑なオペレーションをシステムで表現することを諦めませんでした。

もっと高いレベルで顧客の期待に応えられるように大規模な経営改革に着手

1社1社の課題と愚直に向き合うことで、導入していただける企業数も増えてきてはいたのですが、2019年頃までのロジレスは高い事業ポテンシャルに関して売上成長はそこそこ。経営の意思決定が遅く、事業進捗も悪い。会社として最終的に目指す方向性も、それを成すための戦略・戦術も全く示せておらず、現場の業務にも多くの問題を発生させてしまっている状況でした。こうした状況を招いてしまったのは自分を含めた経営陣の視座の低さと、当事者意識の低さが原因だったと、いま振り返ってみるとはっきりと分かります。

ロジレスとは社会に対して何を成す会社なのか、そのために何をするべきなのかを本気で考え始めたのがちょうど2020年半ば頃でした。僕たちの事業の始まりは、「自分たちの課題解決」というのが出発点。それが少しずつ「お客さまの課題解決」に変わり、さらには「日本の課題解決」を実現できる可能性のあるプロダクトに成長してきました。

このプロダクトの高いポテンシャルを自分たち経営陣が消してしまうわけにはいかない。経営も組織全体も数段成長しなければならないと考え、まずは「社会に対して何を成す会社なのか」を言語化するためにミッション・バリューの再定義に着手しました。そこから3ヵ月の議論期間をかけ、ミッション・バリューを策定。同時にフラットな視点で経営アドバイスをくれる株主(VC)と共に、ロジレスとして最も顧客価値を発揮できる状態を議論をし尽くし、新ミッション・バリューを発表した2021年4月のタイミングで経営体制も刷新。新たなスタートを切りました。事業の現在地については5周年インフォグラフィックもぜひご覧ください。

ロジスティクスに変革を起こし、日本の未来をスケールする。挑戦はこれから

ロジレスが掲げるミッションは、「ECロジスティクスを変革し、日本の未来をスケールする」。言葉の背景には、生産年齢人口の減少に伴って、日本のGDPが深刻な状況に陥っていることが挙げられます。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートによると、日本は2007年からの生産年齢人口の減少によってGDP成長率が下がっている状況。日本経済の成長維持、さらに発展させていくには、生産性を大幅に向上させることができる革新的な手立てが不可欠です。

とりわけEC業界は今後も伸び続ける可能性の高い成長領域です。一方でECを支える物流は労働力不足が深刻で、自動化による生産性の大幅な向上が急務です。ECと物流が交差する分野にいる僕たちが変革を起こし、生産性を大きく向上させることができれば、日本全体の成長を支援できると信じています。

高いミッションを掲げましたが、これまでお客さまからいただいた課題を起点に提案していたのに対し、新しいミッションに引っ張られるように僕たちの行動にも変化が生まれています。一方で現場に足を運び、お客さまも気付いていない課題を発見するという僕らのスタンスは変わらずいこうと思います。志高く、泥臭く。僕たちの挑戦は、これからが本番です。